ヘトヘトブログ

B級洋画や小説の感想を書くブログ→の予定だったが、他の趣味についても書いていく

映画「日本で一番悪い奴ら」の感想

今日、日本映画の「日本で一番悪い奴ら」(2016年公開、主演:綾野剛)をAmazonプライムビデオで見た。

目を離せない展開の連続で、本当におもしろかった。今のところ今年最高の映画である。 

あらすじ

綾野剛演じる1人の真面目で気弱な警察官が、警察組織の中で生き残り出世していくために、様々な強引な手段(それがエスカレートして違法行為、犯罪になっていく)をとるようになり、やがて破滅してしまう。

 

感想

稲葉事件という実在の事件をモチーフにしている

この映画の冒頭では「この物語は北海道警察の実在の刑事をモデルにしたフィクションである」ことが明言されているが、Wikipediaなどでちょろっと稲葉事件の概要を調べた程度の認識では、かなり事件に即して作られている映画だと感じる。例えば以前見た「先生を流産させる会」よりはずっと実際の事件に即している。

稲葉事件というのは、まさにこの映画の通りなのだが、北海道警察で銃器対策課のエースと呼ばれたある警察官が覚醒剤取締法違反と銃刀法違反で逮捕され、その背景にある北海道警察の腐敗(裏金の存在、やらせ捜査など)も含めて話題になった事件である。

ただ稲葉事件で逮捕され有罪になった警察官は刑期を終えた後、本を著したり探偵事務所を開いたりしているようなので、この映画の主人公の性格として強調されているような気弱さはなかったのではないかな、となんとなく思う。

 

綾野剛の演技力

この映画の素晴らしさの8割ぐらいは綾野剛にあるといってもいいぐらいこの映画での綾野剛の演技は本当に素晴らしい。最初の柔道しかできない不器用な男が苦労する様子、人から評価されてだんだんと自信をつけていく様子、全ての歯車が噛み合わなくなっていって最後は麻薬に頼るようになり身も心も狂っていく様子、同じ人間が演じているとは思えないほどの幅の広い演技である。

それに加えてすばらしいのがメイクである。メイクで作られた顔つきの変化によって、数十年での主人公の行動や考え方の変化がより迫力をもって伝わってくる。ただ最後、2000年〜2002年ぐらいの夕張に左遷されているときの綾野剛の容姿は主に頭とひげがやや不自然であることが気になった。さすがに短期間に老けすぎなのではないかと笑。

 

今となっては洒落にならないピエール瀧

ピエール瀧綾野剛演じる主人公の1番最初の上司で、主人公のせいで(本人にその気はなかったが)淫行が発覚して逮捕されてしまう悪い刑事の役を演じている。主人公はピエール瀧が演じている上司の助言通りに「点数稼ぎ」)に励み、やがてその上司と同じように破滅してしまう。そのためピエール瀧の演じる役は、出演時間こそ短いがこの映画の中で進む物語の道標のような役である。

悪役がぴったり似合うピエール瀧だが、本当に悪いことに関わっていたことが先日判明しているので、なんだかより一層凄みがある。綾野剛の役は麻薬を使用するシーンが多数あるが、ピエール瀧の役はそれがないのが不幸中の幸いだといえよう。

 

「日本で一番悪い奴ら」は誰か

この映画における「日本で一番悪い奴ら」は、主人公を違法捜査・麻薬使用まで追いこんだ北海道警察の幹部だという意見がある。しかしこの極悪警察官に見える主人公に極悪行為をしなければならなかった背景があったのと同様に、道警の幹部にも裏金を溜め込んだりヤラせ捜査を(ほぼ)強要したりしなければならなかった背景があったのではないかと思う。そう考えると「日本で一番悪い奴ら」をこの映画における特定の登場人物だと決めることはできない。

「日本で一番悪い奴」はいない。「少し悪い奴」、「普通な奴」あるいは「少し良い奴」が集まることによって「日本で一番悪い奴ら」ができあがってしまうのだ。この映画で描かれているのは、「組織」というものがもつ人の性質を変える恐ろしい力なのではないかと思う。